インクリメンタルテストでモバイルマーケティング計測の新しい時代に対応
Alix Carman, Content Writer, Adjust, 2024年4月17日.
変化が目まぐるしいモバイルアプリ業界のマーケティングにおいて、コストをかけなくても発生していたであろうインストールに対して広告費用を支払うことはマーケターにとって避けたい結果です。しかし、オーガニックユーザーによる行動と、広告予算をかけたことによって発生するインストールやイベントとを区別することは、プライバシーコンプライアンスの重視に伴いユーザーIDが利用できなくなったことも要因となり、容易とはいえません。
データプライバシーの変更やテクノロジーの進化により、従来の計測方法ではマーケティングの取り組みに十分に対応できなくなっている昨今、アプリのマーケティングキャンペーンを正確に計測して最適化をさせられる次世代ソリューションへの需要が高まっています。 そこで効果的に解決できるソリューションとなるのがインクリメンタリティ計測です。先を見据えたグロースマーケターはインクリメンタリティ計測を活用し、戦略が生み出す効果の分析に役立てています。
インクリメンタリティ計測で要因を明確化
インクリメンタリティ計測は、アプリにおいて「高い貢献度の戦略的なマーケティングによる成長」を見つけ出す、いわばマーケティングにおける「探偵」のような働きをします。キャンペーンに光を当て、マーケティングの取り組みによって発生したユーザー行動にかかった広告費用を明確化させる役割を果たします。
インクリメンタリティにおいて重要なことは、特定のチャネルや戦略、包括的なキャンペーンなどの個々の要因が生み出す価値を証明し、コントロールできない要因から戦略的に分離することです。 インクリメンタリティ計測を活用すると、キャンペーンで上手く作用していない要因の発見にも役立つため、戦略に微調整を行い、最も収益性の高いチャネルとキャンペーンをスケールアップさせることができます。
ユーザーのプライバシーが重視されたデバイスIDに依存しない業界では、特に有益な効果を発揮します。マーケターはユーザーレベルのデータに依存せずとも、インクリメンタルテストを活用することで、類似するアプリの集計データを基にしてキャンペーンのパフォーマンスに関する正確かつ詳細なインサイトを得ることができるため、従来のセグメント化したユーザーグループに取って代わるアプローチとなります。
Metaのアプリ・ゲーム部門兼EMEAマーケティングサイエンス部門の責任者であるケイト・ミノーグ(Kate Minogue)氏は、インクリメンタリティの価値について、Adjustのアレックス・ファム(Alex Pham)に次のように述べています。「我々が避けたいことは、多くの人々に配信された広告による影響のすべてや、タッチポイントの最後に表示されただけで効果があったとはいえない広告に対してアトリビュートする、という状況でしょう。ここで鍵となるのが実験計画法とインクリメンタリティです。科学的なメソッドを利用して、『もしこの広告がなかったらどうなるか?』ということを検証し、評価することができるのです」
ABテストとインクリメンタルテストの違い
インクリメンタルテストは、テストグループとコントロールグループを比較するABテスト(英語)と同じ概念に基づいています。簡単な例を見てみましょう。
現在アプリのマーケティングキャンペーンを実施しているとし、インストール数のインクリメンタルリフト(増分効果)を割り出したいとします。グループAは「コントロールグループ」と呼ばれ、グループAのユーザーには広告が表示されず、インストール数のベンチマークとなります。 一方、グループBは「テストグループ」と呼ばれ、グループBのユーザーには広告が表示されます。結果として、グループAのインストール数が100、グループBが120だった場合、この数値を基にして、2つの重要なインサイトを導き出すことができます。
インクリメンタルリフトの計算方法: リフト(増分)とは、グループA(コントロールグループ)と比較したグループB(テストグループ)の増加分のことです。上記の例ではグループAとの差である20インストール、または20%の増加に当たります。 次に、インクリメンタルリフトの割合を算出するには、まずグループBのインストール数からグループAのインストール数を差し引き、出てきた数値をグループAのインストール数で割ります。この数に100を掛けるとインクリメンタルリフトの割合が導き出されます。
インクリメンタリティの計算方法: インクリメンタリティは、マーケティング費用によって増加したコンバージョン数がグループBに占める割合です。上記の例では、グループAとの差である20インストールで、これはグループB全体のインストール数の16.7%を占めています。 インクリメンタリティの割合を算出するには、インクリメンタルリフトをグループBのインストール数で割り、その数に100をかけて計算します。
インクリメンタリティによるデータからインサイトを導き出す
上記の例のインクリメンタルリフトを見ると、キャンペーンにより増分が生み出され、プラスの効果が出ているのが分かります。ここから、広告にかけたコストがインストール数20%の増加に値するのかどうかを正確に計算することができます。もし、成果に対してコストをかけ過ぎであると判断する場合には、理論上、広告費用をかけることを一時中断したとしても、インストール数の83.3%を維持できるということです。
しかしながら、インクリメンタルリフトは常にプラスになるとは限りません。 グループAとグループBの結果が同じ、つまりキャンペーンのインクリメンタルリフトが中立に留まることもあります。その場合、キャンペーンにより売上は出てているものの増分がなく、収益を生み出していないということになり、インクリメンタルリフトがプラスの効果を出すようにクリエイティブの変更やターゲット市場の見直しを検討する必要があります。
また、ごく稀に、グループAの結果がグループBの結果を上回り、インクリメンタルリフトがマイナスの効果を出す場合があります。増分が発生せず、マーケティングキャンペーンがかえって逆効果となってしまうケースです。例えば、積極的に行なったリターゲティングキャンペーンなどのマーケティングが結果的には過度であり、潜在的なユーザーを遠ざけてしまう、といった場合です。他にも、ペイドマーケティングでの取り組みによってオーガニックユーザーのカニバリゼーション(奪い合い)が起こる可能性などが考えられます。 万一、インクリメンタルリフトがマイナスの効果を出している場合は、そのキャンペーンは中止し、マーケティングのコンセプトやアプローチ方法を再検討します。カニバリゼーションを避けるには、Adjustなどのモバイル計測パートナー(MMP)と連携し、既存のユーザーを検出するパラメーターを設定することをお勧めします。
ミノーグ氏はインクリメンタリティを、「メディア戦略全体において重要である」と述べ、「Metaのユーザー獲得の観点から見ると、広告主がアトリビューションに関する論理や自分たちの仮説の正確性に確信を持てない場合に、インクリメンタリティを活用することで実際の影響を可視化して、アトリビューションの正確さの度合いを検証することができる」と話しています。
インクリメンタリティを簡単に計測する方法
まず、マーケティングにおいてインクリメンタルテストを実施する際に考慮しておくべき重要なポイントは、主要な指標と目的を決めておくことです。つまり、「何を計測したいのか」と「なぜそれを計測したいのか」という点です。
ミノーグ氏は、アドバイスとして「テストを行う際は、必ず仮説を立てる必要があります。また、よりよいアプローチは、テストの実施に先立って、プラスの結果が出た場合とマイナスの結果が出た場合に、それぞれどう対応するかを計画しておくことです」と述べています。
例えば、コンバージョンイベントを、インストールではなくアプリ内購入(IAP)にした場合、アプリ内購入の発生への広告の影響を計測するとします。仮に靴のショッピングアプリだとすると、ユーザーが靴を購入することがコンバージョンイベントとなるため、主要な結果は靴の売上の増加です。
コントロールグループであるグループAではアプリ内購入が10件、テストグループであるグループBでは20件発生した場合、グループAに対するグループBの結果は、インクリメンタルリフト(増分効果)の割合は100%で、インクリメンタリティの割合は50%となります。これに基づくことで、広告が表示されるユーザー(インクリメンタルユーザー)が商品を購入する可能性が高いのかどうかを判断することができます。 このユースケースにおいて主要な結果を変更すると、インクリメンタリティにより、広告費用に大きな価値があることが映し出されて明確化します。
Poshmark(米国)のグロースディレクターであるミシェル・フィン(Michelle Huynh)氏は、同社がインクリメンタリティ計測によって成長目標を達成したことを次のように振り返ります。
「私たちにとって比較的新しいチャネルとしてテレビのCMが挙げられます。 実は、あるキャンペーンにて、1週間分の広告予算を1日に一気に使い切るという取り組みをしました。ややリスクのある戦略でしたが、さまざまなコストと時間別のチャートを前週と見比べた時に急増する点があるかどうかを確認したかったのです。結果として、広告費用は若干多く掛かるものの、テレビでの広告から流入したユーザーに増加傾向が見られ、おかげでマーケティングのアプローチの大きな改善に繋がりました。CMに掛けるコストを効果的に増加させることができただけでなく、現在、テレビは私たちの会社にとって最大のチャネルの1つとなっています」
インクリメンタルテストから得られるメリットは大きく、獲得したユーザーに費やしたコストを算出できるだけでなく、オーガニックトラフィックへのカニバリゼーション(奪い合い)を避けることにも役立ちます。 このメソッドの活用で、マーケティング予算を組むための貴重なインサイトが得られ、オーガニックユーザーを奪い合うことなくマーケティング予算を最大化するという、すべてのアプリマーケターにとって重要な目標を達成できるようになります。
Adjustを使用したインクリメンタリティや、アプリを成長させるためにインクリメンタリティを活用する方法に関する詳細は、ユーザー獲得ガイド(英語)やメディアミックスモデリングガイド(英語)をご覧ください。インクリメンタリティに関するご質問やご相談は、Adjust担当者までお気軽にお問い合わせください。
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